でになった。自身が信頼して、強情《ごうじょう》で恨めしいところはあっても、機嫌《きげん》をそこねまいとしている常陸守よりも姿も身分もずっとすぐれたような四位や五位の役人が皆おそばに来てひざまずいて、いろいろなことを申し上げたり、御意を伺ったりしていた。また年若な五位などで、この夫人にはだれとも顔のわからぬお供も多かった。自身の継子の式部丞《しきぶのじょう》で蔵人《くろうど》を兼ねている男が御所の御使《みつか》いになって来た。こんな役を勤めながらも、おそば近くへはよう来ない。あまりにも普通人と懸隔のある高貴さに驚いて、これは人間世界のほかから降《くだ》っておいでになった方ではないかという気が常陸の妻にはされた。こんな方に連れ添っておいでになる中の君は幸福であると思った。ただ話で聞いていては、どんなりっぱな方でも女に物思いをおさせになってはよろしくないと、憎いような想像をしていた自分は誤りであった、このお美しい風采《ふうさい》を見れば、七夕《たなばた》のように年に一度だけ来る良人《おっと》であっても女は幸福に思わなくてはならないなどと思っている時、宮は若君を抱いてあやしておいでになった。夫人は短い几帳《きちょう》を間に置いてすわっていたが、その隔ての几帳を横へ押しやって話などを宮はしておいでになるのである。またもない似合わしい美貌《びぼう》の御夫婦であると見えるのであった。八の宮の豊かでおありにならなかった御生活ぶりに比べて思うと、同じ親王と申し上げても恵まれぬ方、恵まれた方の隔たりはこれほどもあるものかという気のする常陸夫人だった。几帳の中へおはいりになったあとでは乳母《めのと》などと若君のお相手をしていた。伺候した者の集まって来ていることが時々申し上げられても、疲れていて気分がよろしくないと仰せになって、夫人の室《へや》から宮はお出にならなかった。お食膳《しょくぜん》がこちらの室へ運ばれて来た。すべてのことが気高《けだか》く高雅であった。自身が姫君の生活に善美を尽くしていると信じていたことも、比較して見ていた目は地方官階級の趣味にほかならなかったと常陸夫人は思うようになった。自分の姫君もこうした親王とお並べしても不似合いでない容姿を備えていると思われる。財力を頼みにして父親がお后《きさき》にもさせようと願っている娘たちは、同じわが子であっても全然そうした美の備わって
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