して、御機嫌《ごきげん》はどうかと始終気にいたしながらお尋ねも申し上げませんでした。あの方に謹慎の日がまわってまいりまして、しばらくどこかへ所を変えさせたいと思うのでございますが、そっとおそばへまいらせていただいていてはどんなものでしょう。人目につかぬお部屋《へや》が拝借できますれば非常にうれしいことと存じます。つまらぬ私には十分の保護もできませんで、あの方を苦しい立場に置きますことのしばしばある悲しい世でございますのに、お助け所と考えられますのはまずあなた様だけでございます。
[#ここで字下げ終わり]
 泣きながら書かれたものであるこの手紙を、中の君は哀れと思ったが、父宮が、あくまで子とあそばさなかった人を、父や姉の異議の聞きようのない世になって、自分が姉妹《きょうだい》としてつきあうのも気のとがめることであるが、また自分がかまわずにおいた結果、低い女房勤めなどをするようになることも心苦しいことに思われるであろう、自分の計らい方一つから姉妹がちりぢりになってしまうことも父宮のためにお気の毒なことであると思い悩まれるのであった。常陸《ひたち》夫人は大輔《たゆう》のところへも姫君についての心苦しさをやや強く書いて言って来たのであったから、
「何かわけがあることでございましょう。冷淡に断わっておしまいになってはいけません。ああした劣った人から生まれた方が姉妹《きょうだい》の中に混じっておいでになることは、どこにも例のあることでございます。先方が無情だと思いますような処置をおとりになってはなりません」
 などと夫人に取りなして、
[#ここから1字下げ]
それではお居間から西のほうに目だたぬ場所をこしらえましたから、いいお座敷ではありませんがごしんぼうをなさいますならしばらくお預かりになろうとおっしゃいます。
[#ここで字下げ終わり]
 と昔の朋輩《ほうばい》の中将へ返事をした。その人はうれしく思ってさっそく姫君を二条の院の夫人へ預ける決心をした。姫君も姉君と親しみたくてならぬ心であったから、かえって少将の問題が機会を作ったのを喜んだ。
 常陸守は婿の少将の三日の夜の儀式をどんなふうに派手《はで》に行なおうかと思案をしたのであるが、高尚《こうしょう》なことは何もわからぬ男であったから、ただ荒い東国産の絹を無数に投げ出し、酒肴《しゅこう》も座が狭くなるほどにも運び出すような歓
前へ 次へ
全45ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング