られてはならぬとはばかられて煩悶《はんもん》がされた。女房たちも夫人の気持ちのわかりそうな若い人らは皆新しく京へ移った前後から来てなじみが浅く、またなじみの深い人たちといっては昔から宇治にいた老いた女房らであったから、苦しいことも左右の者に洩《も》らすことができず、姉君を思い出さぬおりもなかった。姉君さえおいでになれば中納言も自分へ恋をするようなことにはむろんならなかったはずであると、大姫君の死が悲しく思われ、宮が二心をお持ちになり、恨めしいことも起こりそうに予想されることよりもこの中納言の恋を中の君は苦しいことに思った。
 薫はおさえきれぬものを心に覚えて、例のとおりにしんみりとした夕方に二条の院の中の君を訪《たず》ねて来た。すぐに縁側へ敷き物を出させて、
「身体《からだ》を悪くしております時で、お話を自身で伺えませんのが残念でございます」
 と中の君が取り次がせて来たのを聞くと、薫は恨めしさに涙さえ落ちそうになったのを人目につかぬようにしいて紛らして、
「御病気の時には、知らぬ僧でもお近くへまいるのですから、私も医師並みに御簾《みす》の中へお呼びいただいてもいいわけでしょう。こうし
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