も皆与えることができた。薫も宮に劣らず大事にかしずかれて育った人で、高い自尊心も持ち、一般の世の中から超越した貴族的な人格も持っているのであるが、宇治の八の宮の山荘へ伺うようになって以来、豊かでない家の生活の寂しさというものは想像以上のものであったと同情を覚え、その御一家だけへではなく、物質的に恵まれない人々をあまねく救うようになったのである。哀れな動機というべきである。
薫はぜひとも中の君のために邪悪な恋は捨てて、清い同情者の地位にとどまろうとするのであるが、自身の心が思うにまかせず、常に恋しくばかり思われて苦しいために、手紙をもって以前よりもこまごまと書き、不用意に恋の心が出たふうに見せたような消息をよく送るようになったのを、中の君はわびしいことの添ってきた運命であると歎いていた。まったく知らぬ人であったならば、狂気の沙汰《さた》とたしなめ、そうした心を退けるのが容易なことであろうが、昔から特別な後援者と信頼してきて、今さら仲たがいをするのはかえって人目を引くことになろうと思い、さすがにまた薫の愛を憐《あわれ》む心だけはあるのであっても、誘惑に引かれて相手をしているもののようにと
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