仮にあったとしても、この人をうとんじてしまうことはできないふうな、美しいいたいたしい中の君の姿に、恨みをばかり言っておいでになることができずに、宮は歎いている人の機嫌《きげん》を直させるために言い慰めもしておいでになった。
 翌朝もゆるりと寝ておいでになって、お起きになってからは手水《ちょうず》も朝の粥《かゆ》もこちらでお済ませになった。座敷の装飾も六条院の新婦の居間の輝くばかり朝鮮、支那《しな》の錦《にしき》で装飾をし尽くしてある目移しには、なごやかな普通の家の居ごこちよさをお覚えになって、女房の中には着疲れさせた服装のも混じっていたりして、静かに見まわされる空気が作られていた。夫人は柔らかな淡紫《うすむらさき》などの上に、撫子《なでしこ》色の細長をゆるやかに重ねていた。何一つ整然としていぬものもないような盛りの美人の新婦に比べてごらんになっても、劣ったともお思われにならず、なつかしい美しさの覚えられるというのは宮の御愛情に相当する人というべきであろう。円《まる》く肥えていた人であったが、少しほっそりとなり、色はいよいよ白くて上品に美しい中の君であった。怪しい疑いを起こさせるにおいな
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