に人を愛しようというようなことは身分のない者のすることですよ。そんなに私が長く帰って来ませんでしたか、そうでもないではありませんか。私の信じていたよりも愛情の淡《うす》いあなただった」
 などとお責めになるのである。愛する心からこうも思われるのであるというふうにお訊《き》きになっても、ものを言わずにいる中の君に嫉妬《しっと》をあそばして、

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またびとになれける袖《そで》の移り香をわが身にしめて恨みつるかな
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 とお言いになった。夫人は身に覚えのない罪をきせておいでになる宮に弁明もする気にならずに、
「あなたの誤解していらっしゃることについて何と申し上げていいかわかりません。

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見なれぬる中の衣と頼みしをかばかりにてやかけ離れなん」
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 と言って泣いていた。その様子の限りなく可憐《かれん》であるのを宮は御覧になっても、こんな魅力が中納言を惹《ひ》きつけたのであろうとお思いになり、いっそうねたましくおなりになり、御自身もほろほろと涙をおこぼしになったというのは女性的なことである。どんな過失が
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