ろであるからこんなふうになっているのであろうと思召したが、さすがに不審に思召すこともあって、
「ひょっとすればあなたに子ができるようになったのではないだろうか。妊婦というものはそんなふうに苦しがるものだそうだから」
ともお言いになったが、中の君は恥ずかしくて、そうでないふうばかりを作っているのを、進み出て申し上げる人もないため、確かには宮もおわかりにならなかった。
八月になると、左大臣の姫君の所へ宮がはじめておいでになるのは幾日ということが外から中の君へ聞こえてきた。宮は隔て心をお持ちになるのではないが、お言いだしになることは気の毒でかわいそうに思われておできにならないのを、夫人はそれをさえ恨めしく思っていた。隠れて行なわれることでなく、世間じゅうで知っていることをいつごろとだけもお言いにならぬのであるから、中の君の恨めしくなるのは道理である。この夫人が二条の院へ来てからは、特別な御用事などがないかぎりは御所へお行きになっても、ほかへおまわりになり、泊まってお帰りになるようなことを宮はあそばさないのであって、情人の所をお訪《たず》ねになって孤閨《こけい》を夫人にお守らせになることもなかったのが、にわかに一方で結婚生活をするようになればどんな気がするであろうと、お心苦しくお思われになるため、今から習慣を少しつけさせようとされて、時々御所で宿直《とのい》などをあそばされたりするのを、夫人にはそれも皆恨めしいほうにばかり解釈されたに違いない。中納言もかわいそうなことであると、この問題における中の君を思っていて、宮は浮気《うわき》な御性質なのであるから、愛してはおいでになっても、はなやかな新しい夫人のほうへお心が多く引かれることになるであろう、婚家もまた勢いをたのんでいる所であるから、間断なしに婿君をお引き留めしようとすることになれば、今までとは違った変わり方に中の君は待ち続ける夜を重ねることになっては哀れであるなどと、こんなことが思われるにつけても、なんたることであろう、不都合なのは自分である、何のためにあの人を宮へお譲りしたのであろう、死んだ姫君に恋を覚えてからは、宗教的に澄み切った心も不透明なものになり、盲目的になり、あらゆる情熱を集めてあの人を思いながらも、同意を得ずに男性の力で勝つことは本意でないとはばかって、ただ少しでもあの人に愛されて相思う恋の成立をば夢見
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