はたん》があるであろうと思いつつ、今日まで来たのである。多情な御性質とはかねて聞いていて、頼みにならぬ方とは思いながらも、いっしょにいては恨めしく思うようなことも宮はしてお見せにならず、深い愛の変わる世もないような約束ばかりをあそばした。それがにわかに権家の娘の良人《おっと》になっておしまいになったなら、どうして静めえられる自分の心であろう、並み並みの身分の男のように、まったく自分から離れておしまいになることはあるまいが、どんなに悩ましい思いを多くせねばならぬことであろう、自分はどうしても薄命な生まれなのであるから、しまいにはまた宇治の山里へ帰ることになるのであろうと考えられるにつけても、出て来たままになるよりも再び帰ることは宇治の里人にも譏《そし》らわしいことであるに違いない、返す返すも父宮の御遺言にそむいて結婚をし、山荘を出て来た自分の誤りが恥ずかしい、しかさせた運命が恨めしいと中の君は思うのであった。姉君はおおようで、柔らかいふうなところばかりが外に見えたが、精神は確《しか》としておいでになった。中納言が今も忘れがたいように姉君の死を悲しみ続けているが、もし生きていたらば、今の自分のような物思いをすることがあったかもしれぬ、そうした未来をよく察して、あの人の妻になろうとされなかった、いろいろに身をかわすようにして中納言の恋からのがれ続けていて、しまいには尼になろうとしたではないか、命が助かっても必ず仏弟子《ぶつでし》になっていたに違いない、今思ってみればきわめて深い思慮のある方であった、父宮も姉君も自分をこの上もない、軽率な女であるとあの世から見ておいでになるであろうと、恥ずかしく悲しく思うのであったが、何も言うまい、言っても効《かい》のないことを言って嫉妬《しっと》がましい心を見られる必要もないと中の君は思い返して、宮の新しい御縁組みのことは耳にはいってこぬふうで過ごしていた。
 宮はこの話のきまってからは、平生よりもまた多く愛情をお示しになり、なつかしいふうに将来のことをどの日もどの日もお話しになり、この世だけでない永久の夫婦の愛をお約しになるのであった。中の君はこの五月ごろから普通でない身体《からだ》の悩ましさを覚えていた。非常に苦しがるようなことはないが、食欲が減退して、毎日横にばかりなっていた。妊婦というものを近く見る御経験のなかった宮は、ただ暑いこ
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