少しも見えないあなたに、よくわかっていただこうと思うからです。奇怪であるとは、私が無礼なことでもするとお思いになるのではありませんか。仏のお前でどんな誓言でも私は立てます。決してあなたのお気持ちを破るような行為には出まいと初めから私は思っているのですから、お恐れになることはありませんよ。私がこんなに正直におとなしくしておそばにいることはだれも想像しないことでしょうが、私はこれだけで満足して夜を明かします」
 こう言って、薫は感じのいいほどな灯《ひ》のあかりで姫君のこぼれかかった黒髪を手で払ってやりながら見た顔は、想像していたように艶麗《えんれい》であった。何の厳重な締まりもないこの山荘へ、自分のような自己を抑制する意志のない男が闖入《ちんにゅう》したとすれば、このままで置くはずもなく、たやすくそうした人の妻にこの人はなり終わるところであった、どうして今までそれを不安とせずに結婚を急ごうとはしなかったかとみずからを批難する気にもなっている薫であったが、言いようもなく情けながって泣いている女王が可憐《かれん》で、これ以上の何の行為もできない。こんなふうの接近のしかたでなく、自然に許される日
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