》を巻き上げてながめていると、御寺《みてら》の鐘の声が今日も暮れたとかすかに響いてきた。

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おくれじと空行く月を慕ふかな終《つ》ひにすむべきこの世ならねば
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 風がはげしくなったので、揚げ戸を皆おろさせるのであったが、四辺の山影をうつした宇治川の汀《みぎわ》の氷に宿っている月が美しく見えた。京の家の作りみがいた庭にもこんな趣きは見がたいものであるがと薫は思った。病体にもせよあの人が生きていてくれたならば、こんな景色《けしき》も共にながめて語ることができたであろうと思うと、悲しみが胸から外へあふれ出すような気がした。

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恋ひわびて死ぬる薬のゆかしきに雪の山には跡を消《け》なまし
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 死を求める雪山童子《せつさんどうじ》が鬼に教えられた偈《げ》の文も得たい、それを唱えてこの川へ身を投げ、亡《な》き人に逢《あ》おうと薫《かおる》が思ったというのは、あまりに未練な求道者というべきである。
 中納言は女房たちを皆そばへ呼び集めて、話などをさせて聞いていた。様子のりっぱであることと、親切な性情を知っ
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