、それはいいのだ。貴族の娘は貴族らしく品位を落とさないで他の軽侮を受けない身の持ち方で終始するのが世間へ対しても、それら自身にも潔《いさぎよ》いことだろうと思う。世間並みな幸福を得させようとしてすることも、そのとおりにならないではかえって悲惨だから、決して軽率な考えでおまえがたが女王らに過失をさせるような計らいをしてはならない」
などとお言い聞かせになった。
いよいよその朝早くお出かけになろうとする時にも、宮は女王たちの居間へおいでになって、
「私の留守の間を心細く思わずにお暮らしなさい。機嫌《きげん》よく音楽でももてあそんでいるがよい。何事も思うままにならぬ人生なのだから悲観ばかりはせずにいなさい」
ともお言いになり、顧みがちに寺へおいでになったのであった。たださえ寂しい境遇の女王たちはいっそう心細さを感じて、物思いばかりがされ、明け暮れ二人はいっしょにいて話し合いながら、
「どちらか一人がいなかったらどうして暮らされるでしょう。でも明日のことはわかりませんからね。もし二人が別れてしまうことになったらどうしましょう」
などとも言い、泣きも笑いもするのであった。遊戯に属したことも、勉強事もいっしょにして慰め合っていた。御寺《みてら》で行なっておいでになる三昧《さんまい》の日数が今日で終わるはずであるといって、女王たちは父宮のお帰りになるのを待っていた日の夕方に山の寺から宮のお使いが来た。
「今朝《けさ》から身体《からだ》のぐあいが悪くて家のほうへ帰られぬ。風邪《かぜ》かと思うのでその手当てなどを今日《きょう》はしています。平生以上にあなたがたと逢《あ》いたく思う時なのにあやにくなことです」
というお言葉が伝えられた。姫君たちは驚きに胸が一時にふさがれた気もしながら、綿の厚い宮のお衣服を作らせてお送りなどした。それに続いて二、三日もまだ宮は山をお出になることができない。
御容体を聞きに出荘から手紙の使いを出すと、
「大病にかかったとは思われない。ただどことなく苦しいだけであるから、少しでもよろしくなれば帰ろうと思う。今はつとめて心身を安静にしようとしている」
と言葉でのお返事があった。
阿闍梨《あじゃり》はずっと付き添って御看護をしていた。
「たいした御病患とは思われませんが、あるいはこれが御寿命の終わりになるのかもしれません。姫君がたのことを何も心配
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