りをしてお暮らしになった。子という絆《きずな》に引かれて出家のできぬことすら不幸な運命であると残念がられる宮でおありになったから、まして普通の人がするような再婚などを今さらしようとは思わぬ、とこういう気持ちは年月と共に加わり、それだけ世の中から遠のいておゆきになる宮であって、お心だけは僧と同じになっておいでになり、夫人の歿後《ぼつご》は異性をお求めになるようなお心は戯れにもお持ちになることはなかった。
「そんなにいつまでも夫人のことばかりを思っておいでにならないでもいいではないか。妻に死別した直後にはこれほど悲しいことはないと思うのが普通だろうが、時がたてばたったように心境の変化がなくてはならない。世間のだれもがするようにあとの夫人を選定されて、結婚をなすったら、宮家の心細い御経済も緩和されると思うが」
 こんなお陰口《かげぐち》も言いながら似合わしい第二の夫人のお取り持ちをしようとする人たちも相当多いのであるが、宮は耳をお傾けにならなかった。
 念誦《ねんじゅ》をあそばすひまひまは姫君たちの相手におなりになって、もうだいぶ大きくなった二女王に琴の稽古《けいこ》をおさせになったり、碁を
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