御簾の前にしか座が頂戴《ちょうだい》できないのでしょうか。あさはかな心だけでは決して訪《たず》ねてまいれるものでないと、何里の夜路《よみち》をまいって自身でも認めうるのですから、御待遇を改めていただきたいものですね。たびたびこうしてこちらへ上がっております誠意だけはわかっていただいているものと頼もしくは思っております」
まじめに薫はこう言った。若い女房にはこの応対にあたりうる者もなく、皆きまり悪く上気している者ばかりであったから、部屋《へや》へ下がって寝ているある一人を、起こしにやっている間の不体裁が苦しくて、大姫君は、
「何もわからぬ者ばかりがいるのですから、わかった顔をいたしましてお返辞を申し上げることなどはできないのでございます」
と、品のよい、消えるような声で言った。
「人生の憂《う》さがわかりながら私の知らず顔をしていますのも、世の中のならわしに従っているだけなのです。宮様はすでに私の気持ちをお知りになっておられますのに、あなた様だけが俗世界の一人としか私をお認めくださらないのは残念です。世間を超越された宮様のこの御生活の中においでになりますあなた様がたのお心の境地は澄み
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