るのである。新女御にも敬意を表しに行くことをしながら、心のうちでは、失敗した求婚者をどう見ているかと知りたく思っていた。
ある夕方のしめやかな気のする時に、薫《かおる》の侍従は藤《とう》侍従とつれ立って院のお庭を歩いていたが、新女御の住居《すまい》に近い所の五葉《ごよう》の木に藤《ふじ》が美しくかかって咲いているのを、水のそばの石に、苔《こけ》を敷き物に代えて二人は腰をかけてながめていた。露骨には言わないのであるが、失恋の気持ちをそれとなく薫は友にもらすのであった。
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手にかくるものにしあらば藤の花松よりまさる色を見ましや
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と言って、花を見上げた薫の様子が身に沁《し》んで気の毒に思われた藤侍従は、自身は無力で友のために尽くすことができなかったということをほのめかして薫をなだめていた。
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紫の色は通へど藤の花心にえこそ任せざりけれ
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まじめな性質の人であったから深く同情をしていた。薫は失恋にそれほど苦しみもしていなかったが残念ではあった。
蔵人少将はどうすればよいかも自身でわから
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