く勝手がわかっていないから」
 と言って、蔵人少将とつれだって西の渡殿《わたどの》の前の紅梅の木のあたりを歩きながら、催馬楽《さいばら》の「梅が枝」を歌って行く時に、薫の侍従から放散する香は梅の花の香以上にさっと内へにおってはいったために、家の人は妻戸を押しあけて和琴を歌に合わせて弾《ひ》きだした。呂《りょ》の声の歌に対しては女の琴では合わせうるものでないのに、自信のある弾き手だと思った薫は、少将といっしょにもう一度「梅が枝」を繰り返した。琵琶も非常にはなやかな音だった。まったく芸術的な家であるとおもしろくなった薫は、元日とは変わった打ち解けたふうになって、冗談《じょうだん》なども今夜は言った。
 御簾《みす》の中から和琴を差し出されたが、二人の公達《きんだち》は譲り合って手を触れないでいると、夫人は末の子の侍従を使いにして、
「あなたのは昔の太政大臣の爪音《つまおと》によく以ているということですから、ぜひお聞きしたいと思っているのです。今夜は鶯《うぐいす》に誘われたことにしてお弾きくだすってもいいでしょう」
 と言わせた。恥ずかしがって引っ込んでしまうほどのことでもないと思って、たい
前へ 次へ
全56ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング