いた。母の雲井《くもい》の雁《かり》夫人からもそのことについての手紙も始終寄せられていた。
[#ここから1字下げ]
まだ軽い身分ですが、しかもお許しくださる御好意を、あるいはお持ちくださることかと思われます。
[#ここで字下げ終わり]
と夕霧の大臣からも言ってよこされた。玉鬘《たまかずら》夫人は上の姫君をただの男とは決して結婚させまいと思っていた。次の姫君はもう少し少将の官位が進んだのちなら与えてもさしつかえがないかもしれぬと思っていた。少将は許しがなければ盗み取ろうとするまでに深い執着を持っているのである。もってのほかの縁と玉鬘夫人は思っているのではないが、女のほうで同意をせぬうちに暴力で結婚が遂行されることは、世間へ聞こえた時、こちらにも隙《すき》のあったことになってよろしくないと思って、蔵人少将の取り次ぎをする女房に、
「決して過失をあなたたちから起こしてはなりませんよ」
といましめているので、その女も恐れて手の出しようがないのである。
六条院が晩年に朱雀《すざく》院の姫宮にお生ませになった若君で、冷泉院が御子のように大事にあそばす四位の侍従は、そのころ十四、五で、まだ小さく、幼いはずであるが、年齢よりも大人《おとな》びて感じのよい若公達《わかきんだち》になっていて、将来の有望なことが今から思われる風貌《ふうぼう》の備わった人であるのを、尚侍は婿にしてみたいように思っていた。この邸《やしき》は女三《にょさん》の尼宮《あまみや》の三条のお邸に近かったから、源侍従は何かの時にはよくここの子息たちに誘われて遊びにも来るのであった。妙齢の女性のいる家であるから、出入りする若い男で、自身をよく見られたいと願わぬ人はないのであるが、容貌の美しいのは始終来る蔵人少将、感じのよい貴人らしい艶《えん》な姿のあることはこの四位の侍従に超《こ》えた人もなかった。六条院の御子という思いなしがしからしめるのか、源侍従はほかからも特別なすぐれた存在として扱われている人である。若い女房たちはことさら大騒ぎしてこの人をほめたたえるのであった。尚侍も、
「人が言うとおりだね、実際すばらしい公達ね」
などと言っていて、自身が出て親しく話などもするのであった。
「院の御親切を思うと、お別れしてしまったことが、ひどい損失のような気がして、悲しくばかりなる私が、お形見と思ってお顔を見ることのできる方でも、右大臣はあまりにごりっぱな御身分で、何かの機会でもなければお逢《あ》いすることもできないのだから」
と言っていて、尚侍は源侍従を弟と思って親しみを持っているのであったから、その人も近い親戚《しんせき》の家としてここへ出てくるのである。若い人に共通した浮わついたことも言わず、落ち着いたふうを見せていることで、二人の姫君付きの女房は皆物足らぬように思って、いどみかかるふうな冗談《じょうだん》もよく言いかけるのだった。
正月の元日に尚侍《ないしのかみ》の弟の大納言、子供の時に父といっしょに来て、二条の院で高砂《たかさご》を歌った人であるその人、藤《とう》中納言、これは真木柱《まきばしら》の君と同じ母から生まれた関白の長子、などが賀を述べに来た。右大臣も子息を六人ともつれて出てきた。容貌を初めとしてまた並ぶ人なきりっぱな大官と見えた。子息たちもそれぞれきれいで、年齢の割合からいって、皆官位が進んでいた。物思いなどは少しも知らずにいるであろうと見えた。いつものように蔵人少将はことに秘蔵|息子《むすこ》らしくその中でも見えたが、気の浮かぬふうが見え、恋をしている男らしく思われた。
大臣は几帳《きちょう》だけを隔てにして、尚侍と昔に変わらぬふうで語るのであった。
「用のない時にも伺わなければならないのを、失礼ばかりしています。年がいってしまいまして、御所へまいる以外の外出がもういっさいおっくうに思われるものですから、昔の話を伺いたい気持ちになります時も、そのままに済ませてしまうようになるのを遺憾に思います。若い息子たちは何の御用にでもお使いください。誠意を認めていただくようにするがいいと教えております」
「もうこの家などはだれの念頭にも置いていただけないものになっておりますのに、お忘れになりませんで御親切にお訪《たず》ねくださいましたのをうれしく存じますにつけましても、院の御厚志が私を今になっても幸福にしてくださるのだとかたじけなく思うのでございます」
尚侍はこんなことを言ったついでに、冷泉院からあった仰せについて大臣へ相談をかけた。
「しかとした後援者を持ちませんものが、そうした所へ出てまいっては、かえって苦しみますばかりかとも思われますが」
「宮中からもお話があるということですが、どちらへおきめになっていいことでしょうね。院は御位《みくらい》をお去りになり
前へ
次へ
全14ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング