は劣っているかもしれぬ、だから世界の広いことは個人を安心させないことになる、類がないと思っていても、それ以上な価値の備わったものが他にあることにもなるのであろうなどと思って、いっそう好奇心が惹《ひ》かれた。
「ここ数月の間はなんとなく家の中がざわついていまして、あなたの琴の音を長く聞くこともありませんでしたよ。西にいる人は琵琶《びわ》の稽古《けいこ》を熱心にしていますよ。上達する自信があるのでしょうか。琵琶はまずく弾《ひ》かれると我慢のならないものです。できますればよく教えてやってください。この老人はどの芸といって特に深く稽古をしたものといってはないのですが、昔の黄金時代に行なわれた音楽の遊びに参加しただけの功徳で、すべての音楽を通じて耳だけはよく発達しているのです。たくさんはお聞かせになりませんが、時々お聞きするあなたの琵琶の音にはよく昔のその時代を思い出させるものがありますよ。現在では六条院からお譲りになった芸で、左大臣だけが名手として残しておいでになりますが、薫《かおる》中納言、匂宮の若いお二人はすべての点で昔の盛りの御代《みよ》の人に劣らないと思われる天才的な人たちで、熱心におやりになる音楽のほうで言えば、宮様の撥音《ばちおと》の少し弱い点は六条院に及ばぬところであると私は思っているのです。ところがあなたのは非常に院のお撥音に似ています。琵琶は絃《いと》のおさえ方の確かなのがよいということになっていますが、柱《じ》をさす間だけ撥音の変わる時の艶な響きは女の弾き手のみが現わしうるもので、かえって女の名手の琵琶のほうを私はおもしろく思いますよ。今からお弾きになりませんか。女房たち、お楽器を」
と大納言は言った。女房らは大納言に対してあまり隠れようとはしないのであるが、若い高級の女房の一人で、顔を見せたがらないのが、じっとして動かないのを大納言は、
「お付きの人たちさえも私を他人扱いするのがくやしい」
と腹をたてて見せたりもした。
若君が御所へ上がろうとして直衣《のうし》姿で父の所へ来た。正装をしてみずら[#「みずら」に傍点]を結った形よりも美しく見える子を、大納言は非常にかわいく思うふうであった。夫人も行っている麗景殿《れいげいでん》へすることづてを大納言はするのであった。
「お任せしておいて、今夜も私は失礼するだろうと思う、と言うのだよ。気分が少し悪いか
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