でこの中将に深い愛をお持ちになったし、中宮はもとより同じ院内で御自身の宮たちといっしょに生《お》い立って、いっしょにお遊ばせになったころのお扱いをお変えにならなかった。
「末に生まれてかわいそうな子です。一人前になるまでを自分が見てやることもできない」
 と、院が仰せられたことをお思いになって、憐《あわれ》みを深くかけておいでになるのである。夕霧の右大臣も自身の公達《きんだち》よりもこの人を秘蔵がって丁寧に扱うのであった。昔の光源氏は帝王の無二の御愛子ではあったが、嫉妬《しっと》する反対派があったり、母方の保護者がなかったりして、聡明《そうめい》な資質から遠慮深く世の中に臨んでおいでになって、一世の騒乱になりかねぬようなことになった時も、いさぎよく自身で渦中《かちゅう》を去り、宗教を深く信じて冷静に百年の計をされたのである。この中将は若年ですでにあらゆる条件のそろった恵まれた環境に置かれていた。そしてそれに相当した優秀な男子でもあるのである。仏が仮に人として出現されたかと思われるところがこの人にあった。容貌《ようぼう》もどこが最も美しいというところはなくて、目を驚かすものもないが、ただ
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