夕のお仕事にあそばし、御自邸の庭にも春の花は梅を主にして、秋は人の愛する女郎花《おみなえし》、小男鹿《さおしか》のつまにする萩《はぎ》の花などはお顧みにならずに、不老の菊、衰えてゆく藤袴、見ばえのせぬ吾木香《われもこう》などという香のあるものを霜枯れのころまでもお愛し続けになるような風流をしておいでになるのであった。昔の光源氏はこうしたかたよったことはされなかったものである。
 源中将は始終宮の二条の院へお伺いするのであって、音楽の遊びの行なわれる時にも優越を誇るような笛の音を吹き立てる相手を、互いに好敵手と認める若いどうしであった。世間も黙ってはいなかった。匂《にお》う兵部卿、薫《かお》る中将とやかましく言って、すぐれた娘を持つ貴族たちはこの貴公子たちを婿に擬して、好奇心の起こるようにしむける者もあるのを、宮は相手の女の価値を相当なものと考えられる人へは手紙を送ってごらんになって、なお細かく相手を観察しようとされるのであった。しかも熱心にだれを得なければならぬとお思いになる女はなかった。冷泉《れいぜい》院の女一《にょいち》の宮《みや》と結婚ができたらうれしいであろうと匂宮《におうみや
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