房たちは、ましてとめどもなく泣かれるのであった。そうしていよいよ院が見捨てておしまいになることの歎《なげ》かわしさをだれも訴えたいのであるが、言い出しうる者もなかった。皆むせ返っていたからである。こんなふうに歎きに明かしておしまいになる朝、物思いに一日をお暮らしになった夕方などのしんみりとした時間には、愛人関係が以前あった人たちを居間に集めて語り合うのを慰めにあそばす院でおありになった。
中将の君というのはまだ小さい時から夫人に仕えてきた人であったが、院はいつとなく無関心でありえなくおなりになったか情人にしておしまいになったのを、彼女は夫人に対して自責の念に堪えないで、院の愛の手を避けるようにばかりしていたが、夫人の歿後《ぼつご》は愛欲を離れて、だれよりもすぐれて故人の愛していた女房であったとお思われになることによって、形見と見てこの人に院は愛を持っておいでになった。性質も容貌《ようぼう》も皆よくて、喪服姿がうない松に似た可憐《かれん》な女である。親しくない女房には顔もあまりお見せにならないこのごろの院でおありになった。お近しくした高官たちとか、御兄弟の宮がたとかは始終お訪《たず》ね
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