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 と返しを申された。紅梅の木の下を通って対のほうへ歩いておいでになる宮の、御|風采《ふうさい》のなつかしいのを御覧になっても、今ではこの人以外に紅梅の美と並べてよい人も存在しなくなったのであると院はお思いになった。花はほのかに開いて美しい紅を見せていた。音楽の遊びをされるのでもなく、常の新春に変わったことばかりであった。
 女房なども長く夫人に仕えた者はまだ喪服の濃い色を改めずにいて、なお醒《さ》ましがたい悲しみにおぼれていた。他の夫人たちの所へお出かけになることがなくて、院が常にこちらでばかり暮らしておいでになることだけを皆慰めにしていた。これまで執心がおありになるのでもなく、時々情人らしくお扱いになった人たちに対しては独居をあそばすようになってからはかえって冷淡におなりになって、他の人たちへのごとく主従としてお親しみになるだけで、夜もだれかれと幾人も寝室へ侍《はべ》らせて、御退屈さから夫人の在世中の話などをあそばしたりした。次第に恋愛から超越しておしまいになった院は、まだこうした純粋なお心になれなかった時代に、怨《うら》めしそうな様子がおりおり夫人に見えたことな
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