ことだけを書いておいては、あまりに弱いことであると批難するであろう、大臣の性格を知っておいでになる院は御注意をみずからあそばして、たびたび厚意のある御慰問を受けているといって、悦《よろこ》びの言葉などもお書き加えになるのをお忘れにならなかった。
薄墨色を着ると葵《あおい》夫人の死んだ時にお歌いになったその喪服よりも、今度は少し濃い色のを着て悲しみを示された。
どんな幸運に恵まれていても、理由のない世間の嫉妬《しっと》を受けることがあるものであるし、またその人自身にも驕慢《きょうまん》な心ができてそのために人の苦しめられる人もあるのであるが、紫の女王という人は不思議なほどの人気があって、何につけても渇仰《かつごう》され、ほめられる唯一の瑕《きず》のない珠《たま》のような存在であり、善良な貴女《きじょ》であったのであるから、たいした関係のない世間一般の人たちまでも今年の秋は虫の声にも、風の音にも、また得がたいこの世の宝を失った悲しみに誘われて、涙を落とさない者はないのである。ましてほのかにでも女王を見たことのある人たちにとって、女王を失った悲しみはとうてい忘られるものではなかった。女王
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