》夫人の葬送の夜明けのことを院は思い出しておいでになったが、その時はなお月の形が明瞭《めいりょう》に見えた御記憶があった。今は心も目も暗闇《くらやみ》のうちのような気のあそばされる院でおありになった。女王は十四日に薨去《こうきょ》したのであって、これは十五日の夜明けのことである。
 はなやかな日が上って、野原一面に置き渡した露がすみずみまできらめく所をお通りになりながら、院はいっそうこの時人生というものをいとわしく悲しく思召して、残った自分の命といっても、もう長くは保ちえられるものではないであろうから、こうした苦しみを見る時に、昔からの希望であった出家も遂げたいとしきりにお思われになるのであったが、気の弱さを史上に残すことが顧慮されて、当分はこのままで忍ぶほかはないと御決心はあそばされても、なお胸の悲しみはせき上がってくるのであった。
 夕霧も、紫夫人の忌中を二条院にこもることにして、かりそめにも出かけるようなことはなく、明け暮れ院のおそばにいて、心苦しい御|悲歎《ひたん》をもっともなことであると御同情をして見ながら、いろいろと、お慰めの言葉を尽くしていた。
 風が野分《のわき》ふうに
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