信を持ってこの夜を明かすのであって、渓《たに》を隔てて寝るという山鳥の夫婦のような気がした。ようやく明けがたになった。こうして冷淡に扱われた顔を皆に見せることが恥ずかしくて大将は出て行こうとする時に、
「ただ少しだけ戸をおあけください。お話ししたいことがあるのですから」
 としきりに望んだがなんらの反応も見えない。

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「うらみわび胸あきがたき冬の夜にまたさしまさる関の岩かど
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 言いようもない冷たいお心です」
 と言って、それから泣く泣く出て行った。
 大将は六条院へ来て休息をした。花散里《はなちるさと》夫人が、
「一条の宮様と御結婚なすったと太政大臣家あたりではお噂《うわさ》しているようですが、ほんとうのことはどんなことなのでしょう」
 とおおように尋ねた。御簾《みす》に几帳《きちょう》を添えて立ててあったが、横から優しい継母の顔も見えるのである。
「そんなふうに噂《うわさ》もされるでしょう。亡《な》くなられた御息所《みやすどころ》は、最初私が申し込んだころにはもってのほかのことのように言われたものですが、病気がいよいよ悪くなったころ
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