なしくしていなければならないのでは生きがいもなし、人生の退屈さと悲哀とを紛らすことができないではありませんか。そうかといって感情に乏しい女になっては無価値だし、どうしてこんなふうに育ったのかと親さえも軽蔑《けいべつ》したくなりますからね。ただ心でだけ思って、お坊様が気の毒がる無言太子のようになって、細かな感情も動きながら黙っていなければならない人にするのも無慈悲な親になる。こうであればああであり、それであればこうになる、どうして中庸を得るようにすればいいかと、そんなことを私が考えるのも、他の女性のためではなく女一《にょいち》の宮《みや》を完全な女性にしたいからですよ」
 と院は言っておいでになった。
 夕霧が六条院へ来た時に、実状を知りたく思召《おぼしめ》す心から、院が、
「御息所《みやすどころ》の忌《いみ》がもう済んだだろうね。時はずんずんとたつからね。私が遁世《とんせい》の望みを持ち始めた時からももう三十年たっている。味気ないことだ。夕べの露にも異ならない命を持って安んじていられるわけはないのだからね。どうかして髪を剃《そ》り落としたいと望みながらのんきなふうを装っている。これはい
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