た習慣がついていないのですから苦しくてなりません。初めからそうしておいでになればよかったのよ」
 と恨めしがる妻も憎くはなかった。
「にわかにとあなたが思うようなことが私のどこにあるのですか、あなたは疑い深いのですね。私を中傷する人があるのでしょう。そうした人たちは初めから私に敵意を見せていたものだ。浅葱《あさぎ》の色の位階服が軽蔑《けいべつ》すべきであった私を、今だってあなたの良人にさせておくのが残念で、何かほかの考えを持っている者などがあって、いろんなない噂《うわさ》をあなたに聞かせるのだろう。一方で私のためにそうした濡衣《ぬれぎぬ》を着せられておいでになる方もお気の毒なものだ」
 などと言いながらも夕霧は、女二《にょに》の宮《みや》の御良人となることも堅く期しているのであるから、深く弁明はしようとしないのであった。乳母《めのと》の大輔《たゆう》は気術《きじゅつ》ながって何も言おうとしなかった。なお夫人は奪った手紙を返そうとはせずにどこかへ隠してしまった。夕霧は無理に取り返そうとはせずに、冷静に見せて寝についたのであるが、動悸《どうき》ばかり高く打ってならなかった。どうかして取り返
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