を見つけて、そっと寄って来て後ろから奪ってしまった。夕霧はあきれて、
「どうするのですか。けしからんじゃありませんか。六条の東のお母様のお手紙ですよ。今朝から風邪《かぜ》でお悪かったから、院の御殿へ伺ったままでこちらへ帰って来て、もう一度お訪《たず》ねすることをしなかったのがお気の毒だったから、御様子を聞く手紙を持たせてやったのじゃありませんか。御覧なさい、恋の手紙というような書き方ですか、これは。はしたない下品なことをするじゃありませんか。年月に添って私を侮《あなど》ることがひどくなるのは困ったものだ。女房たちがどう思うかを少しも考慮に入れないのですね」
と言って歎息《たんそく》はしたが、惜しそうにしてしいて夫人の手から取り上げることはしなかったから、雲井《くもい》の雁《かり》夫人もさすがにこの場で読むこともできずにじっと持っていた。
「年月に添って侮るなどとは、あなた御自身がそうでいらっしゃるから、私のことまでも臆測《おくそく》なさるのよ」
夫人は良人《おっと》があまりにまじめな顔をしているのに気おくれがして、若々しく甘えてみせた。夕霧は笑って、
「それはどちらのことでもいい。世間のどこにもあることだからね。けれどもこれだけはほかにないことですよ。相当な身分の男がただ一人の妻を愛して、何かに怖《おそ》れている鷹《たか》のように、じっと一所を見守っているようなのに似た私を、どんなに人が笑っていることだろう。そんな偏屈な男に愛されていることはあなたにとっても名誉じゃありませんよ。おおぜいの妻妾《さいしょう》の中ですぐれて愛される人は、見ない人までもが尊敬を寄せるものだし、自分でも始終緊張していることができて、若々しい血はなくならないであろうし、真の生きがいを感じることが多いだろうと思われる。私のように、昔の何かの小説にある老いぼれの良人のようにあなた一人をただ夢中に愛しているようなことはあなたのために結構なことではありませんよ。そんなことはあなたが世間からはなやかに見られることでは少しもないからね」
夕霧は小野の手紙をいざこざなしに取ってしまいたい心から妻を欺くと、夫人は派手《はで》に笑って、
「はなやかなことをあなたがしようとしていらっしゃるから、古いじみな女の私が一方で苦しんでいるのですよ。にわかにすっかりまじめでなくおなりになったのですもの、私にはそうし
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