御参院であったが、今朝《けさ》はもう表だって準太上天皇の儀式をお用いになるほかはなくて、院に参っていた高官たちは皆|供奉《ぐぶ》をして六条院をお送り申すのであった。
院は東宮の御母君の女御《にょご》が御教育のかいの見える幸福な女性になっていることも、だれよりもすぐれた左大将の存在もうれしく思っておいでになるのであるが、その二人にお持ちになる愛は冷泉院をお思いになる愛の片端にも価《あたい》しないのである。冷泉院も常に恋しく思召しながらたやすく御会合のおできにならないことを物足らぬことに思召してただ今の御境遇を早くお選びにもなったのである。中宮は御実家へお帰りになることが以前よりもむずかしくおなりになって、普通の家の夫婦のようにいつもごいっしょにお暮らしになり、お催し事などは昔よりはなやかなふうにあそばされて、どの点から申しても御幸福なのであるが、母君の御息所《みやすどころ》のことのために専心信仰の道へ進みたいと願いもあそばされるのであったが、だれも御同意にならぬことであったから、せめて功徳を作ることで亡《な》き霊を弔いたいというお考えになって、以前にもまして善根をつもうと精進あそばされ
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