母君の御息所《みやすどころ》の霊が宙宇にさまよって、どんな苦しみを経験しておいでになることかとは中宮の夢寐《むび》にもお忘れになれないことで、今も人に故人を憎悪《ぞうお》させるばかりである名のりを物怪《もののけ》が出てするということも六条院はあくまでも秘密にしておいでになったが、自然に人が噂《うわさ》をしてお耳にはいってからは、非常に母君を悲しく思召して、人生そのものまでがいとわしくおなりになって、仮にもせよ御息所の物怪が言ったという言葉を六条院からお聞きになりたいのであるが、正面から言うことはおできにならないで、
「お母様の霊魂が罪の深いふうに苦しんでおいでになりますことを私はほかから話に聞きまして、それは確かでなくとも想像いたされることなのでございましたが、ただお死に別れしましたことだけを悲しんでおりまして、後世のことまでも幼稚な心の私は考えませんでしたのが悪いことでございました。気がついてみますと、宗教のほうの人にくわしい説明もしていただきたくなりましたし、私の力で及ぶだけの罪の炎をお消ししてお救いもしたいという望みも起こってまいったのでございます」
 などとかすめたふうにしてお
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