時に、冷泉《れいぜい》院から御使《みつか》いが来た。宮中の御遊がないことになったのを残念がって、左大弁、式部大輔《しきぶのたゆう》その他の人々が院へ伺候したのであって、左大将などは六条院に侍しているとお聞きになった院からの御消息には、

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雲の上をかけはなれたる住家《すみか》にも物忘れせぬ秋の夜の月
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「おなじくは」(あたら夜の月と花とを同じくは心知られん人に見せばや)
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 とあった。
「自分はたいそうにせずともよい身分でいて、閑散な御境遇でいらっしゃる院の御|機嫌《きげん》を伺いに上がることをあまりしない私の怠惰を、お忍びのあまりになってくだすったお手紙だからおそれおおい」
 と六条院はお言いになって、にわかなことではあるが冷泉院へ参られることになった。

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月影は同じ雲井に見えながらわが宿からの秋ぞ変はれる
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 このお歌は文学的の価値はともかくも、冷泉院の御在位当時と今日とをお思い比べになって、寂しくお思いになる六条院の御実感と見えた。御使
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