ていると、
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「笛竹に吹きよる風のごとならば末の世長き音《ね》に伝へなん
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私はもっとほかに望んだことがあったのです」
と柏木は言うのである。望みということをよく聞いておこうとするうちに、若君が寝おびれて泣く声に目がさめた。この子が長く泣いて乳を吐いたりなどするので、乳母《めのと》が起きて世話をするし、夫人も灯《ひ》を近くへ持って来させて、顔にかかる髪を耳の後ろにはさみながら子を抱いてあやしなどしていた。色白な夫人が胸を拡《ひろ》げて泣く子に乳などをくくめていた。子供も色の白い美しい子であるが、出そうでない乳房《ちぶさ》を与えて母君は慰めようとつとめているのである。大将もそのそばへ来て、
「どう」
などと言っていた。夜の魔を追い散らすために米なども撒《ま》かれる騒がしさに夢の悲しさも紛らされてゆく大将であった。
「この子は病気になったらしい。はなやかな方に夢中になっていらっしって、おそくなってから月をながめたりなさるって格子をあけさせたりなさるものだから、また物怪《もののけ》がはいって来たのでしょう」
と若々しい顔をした夫人が恨
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