帳《きちょう》を少し横へお押しになって、
「夜居の加持《かじ》の僧のような気はしても、まだ効験を現わすだけの修行ができていないから恥ずかしいが、逢いたがっておいでになった顔をそこでよく見るがいい」
 と法皇は仰せられて目をおふきになった。宮も弱々しくお泣きになって、
「私の命はもう助かるとは思えないのでございますから、おいでくださいましたこの機会に私を尼にあそばしてくださいませ」
 こうお言いになるのであった。
「その志は結構だが、命は予測することを許されないものだから、あなたのような若い人は今後長く生きているうちに、迷いが起こって、世間の人に譏《そし》られるようなことにならぬとは限らない。慎重に考えてからのことにしては」
 などと法皇はお言いになって、六条院に、
「こう進んで言いますが、すでに危篤な場合とすれば、しばらくもその志を実現させることによって仏の冥助《みょうじょ》を得させたいと私は思う」
 と仰せられた。
「この間からそのことをよくお話しになるのですが、物怪《もののけ》が人の心をたぶらかして、そんなふうのことを勧めるのでしょうと申して私は御同意をしないのでございます」
「物
前へ 次へ
全54ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング