ないか、心ではより多く愛する人をもさしおいて、最大級の愛撫《あいぶ》を加えていた自分を裏切っておしまいになるようなことと、そんなことは同日に論ずべきでない、これは罪深いことではないかと反感のお起こりになる院でおありになった。侍している君主のほうでもただ一通りの後宮の女性と御覧になるだけで、御愛情に接することもないような不幸な人に、異性の持つ友情が恋愛にも進んでゆけば、あるまじいこととは知りながらも、苦しむ男に一言の慰めくらいは書き送ることになり、相互の間に恋愛が成長してしまう結果を見るような間柄で犯す罪には十分同情してよい点もあるが、自分のことながらも、あの男くらいに比べて思い劣りされるほどの無価値な者でないと思うがと、院は宮を飽き足らずお思いになるのであったが、またこの問題はほかへ知らせてはならぬと思うことで御|煩悶《はんもん》もされた。父帝もこんなふうに自分の犯した罪を知っておいでになって知らず顔をお作りになったのではなかろうか、考えてみれば恐ろしい自分の過失であったと、御自身の過去が念頭に浮かんできた時、恋愛問題で人を批難することは自分にできないのであると思召《おぼしめ》された。
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