お顔色も悪くおやつれが見えるようになった。衛門督は思いあまる時々に夢のように忍んで来た。宮のお心には今も愛情が生じているのではおありにならないのである。罪をお恐れになるばかりでなく、風采《ふうさい》も地位もそれはこれに匹敵する価値のない人であることはむろんであったし、気どって風流男がる表面を見て、一般人からは好もしい美男という評判は受けていても、少女時代から光源氏を良人《おっと》に与えられておいでになった宮が、比較して御覧になっては、それほど価値に思われる顔でもないのであるから、無礼者であるという御意識以外の何ものもない相手のために、妊娠をあそばされたというのはお気の毒な宿命である。気のついた乳母《めのと》たちは、
「たまにしかおいでにならないで、そしてまたこんなふうに重荷を宮様へお負わせになる」
と院をお恨みしていた。寝《やす》んでおいでになることをお知りになって、院は訪《たず》ねようとあそばされた。
夫人は暑い時分を清くしていたいと思い、髪を洗ってやや爽快《そうかい》なふうになっていた。そしてそのまままた横になっていたのであるから、早くかわかず、まだぬれている髪は少しのもつれも
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