妻戸をあけると、渡殿《わたどの》の南の戸がまだ昨夜《ゆうべ》はいった時のままにあいてあるのを見つけ、渡殿の一室へ宮をおおろしした。まだ外は夜明け前のうす闇《やみ》であったが、ほのかにお顔を見ようとする心で、静かに格子をあげた。
「あまりにあなたが冷淡でいらっしゃるために、私の常識というものはすっかりなくされてしまいました。少し落ち着かせてやろうと思召すのでしたら、かわいそうだとだけのお言葉をかけてください」
 衛門督が威嚇《いかく》するように言うのを、宮は無礼だとお思いになって、何かとがめる言葉を口から出したく思召したが、ただ慄《ふる》えられるばかりで、どこまでも少女らしいお姿と見えた。ずんずん明るくなっていく。あわただしい気になっていながら、男は、
「理由のありそうな夢の話も申し上げたかったのですけれど、あくまで私をお憎みになりますのもお恨めしくてよしますが、どんなに深い因縁のある二人であるかをお悟りになることもあなたにあるでしょう」
 と言って出て行こうとする男の気持ちに、この初夏の朝も秋のもの悲しさに過ぎたものが覚えられた。

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おきて行く空も知られぬ明けぐ
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