はつ》の絃《いと》の標準の柱《じ》を置き全体を弾き試みることはせずにそのまま返そうとするのを院は御覧になって、
「調子をつけるだけの一弾きは気どらずにすべきだよ」
と院がお言いになった。
「今日の会に私がいささかでも音を混ぜますようなだいそれた自信は持っておりません」
大将は遠慮してこう言う。
「もっともだけれども、女だけの音楽に引きさがった、逃げたと言われるのは不名誉だろう」
院はお笑いになった。で大将は調子をかき合わせて、それだけで御簾《みす》の中へ入れた。院の御孫にあたる小さい人たちが美しい直衣《のうし》姿をして吹き合わせる笛の音はまだ幼稚ではあるが、有望な未来の思われる響きであった。かき合わせが済んでいよいよ合奏になったが、どれもおもしろく思われた中に、琵琶《びわ》はすぐれた名手であることが思われ、神さびた撥《ばち》使いで澄み切った音をたてていた。大将は和琴に特別な関心を持っていたが、それはなつかしい、柔らかな、愛嬌《あいきょう》のある爪音《つまおと》で、逆にかく時の音が珍しくはなやかで、大家のもったいらしくして弾くのに少しも劣らない派手《はで》な音は、和琴にもこうした弾
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