った衛門督は、気違いじみた熱を持って、どうかしてその猫を盗み出したいと思うのであるが、それすらも困難なことではあった。
 衛門督は妹の女御《にょご》の所へ行って話すことで悩ましい心を紛らせようと試みた。貴女《きじょ》らしい慎しみ深さを多く備えた女御は、話し合っている時にも、兄の衛門督に顔を見せるようなことはなかった。同胞《きょうだい》ですらわれわれはこうして慣らされているのであるが、思いがけないお顔を外にいる者へ宮のお見せになったことは不思議なことであると、衛門督《えもんのかみ》もさすがに第三者になって考えれば肯定できないこととは思われるのであるが、熱愛を持つ人に対してはそれを欠点とは見なされないのである。衛門督は東宮へ伺候して、むろん御兄弟でいらせられるのであるから似ておいでになるに違いないと思って、お顔を熱心にお見上げするのであったが、東宮ははなやかな愛嬌《あいきょう》などはお持ちにならぬが、高貴の方だけにある上品に艶《えん》なお顔をしておいでになった。帝のお飼いになる猫の幾|疋《ひき》かの同胞《きょうだい》があちらこちらに分かれて行っている一つが東宮の御猫にもなっていて、かわいい
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