は弟たちのほうに多くて、この人は深く落ち着いた静かな風采《ふうさい》によさのあった人であるが、今日はことにおとなしい身のとりなしで侍している姿を、内親王の配偶者として見ても相応らしい男であるが、その関係の正しくないのが不快だ、憎悪《ぞうお》を覚えずにはおられないのであると院は思召したが、さりげなくしておいでになった。
「機会がなくてあなたにも長く逢《あ》いませんでしたね。長く病人の介抱をしていて何の余裕もなくてね、前からここへ来ておいでになる宮が、院の賀に法事をして差し上げたいと言っておられたのが、いろいろな故障で滞っていてね、今年も暮れになったので、これ以上延ばすこともできず、以前に計画したとおりのことはととのわないが、形だけでも精進のお祝い膳《ぜん》を差し上げる運びになって、賀宴などというとたいそうだが、親戚《しんせき》の子供たちの数がたくさんにもなっているのだから、それだけでも御覧に入れようと思って舞の稽古《けいこ》などをさせ始めたものだから、せめてそれだけでもうまくゆくようにと思って、拍子が合うか試してみるのですが、指導をしていただくのに、だれがよいかともよく考える間がなくてあなたに御面倒を見てもらうのがよいときめて、長くおいでもなかったお恨みも捨てたわけですよ」
 とお言いになる院の御様子に、昔と変わった所もないのであるが、衛門督は羞恥《しゅうち》を感じて自身ながらも顔色が変わっている気がして、急にお返辞ができないのであった。
「長らく奥様がたが御病気をしておいでになりますことを承っておりまして、御心配を申し上げながら、前からございました脚気《かっけ》がしきりに出てまいりまして、歩行が困難でございましたために御所へ上がることができませんで、すっかり世の中から隔離されましたような寂しい生活をいたしておりました。院がおめでたい年に達せられますので、年来の御|交誼《こうぎ》に対してまずお祝いを申し上げなければと父が申しておりましたが、関白を拝辞しました自分が表だって出ることよりも、地位は低くとも中納言の私が主催するのが妥当であると父は考えるようになりまして、私の誠意をお目にかくべきだと勧められましたものですから、病体をおしてあちらへはお伺いいたしたのでございます。いよいよお寂しい静かな御生活のように拝見いたしましたあちらの御様子では、はなやかな賀宴をお持ち込みあ
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