夫人をなだめて翌日はずっとそばを離れずにおいでになったあとでは、夜になっても宮のほうへお行きになれずに手紙だけをお送りになった。
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今暁《けさ》の雪に健康をそこねて苦しい気がしますから、気楽な所で養生をしようと思います。
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というのであった。乳母《めのと》の、
「そのとおりに申し上げました」
という言葉を使いが聞いて来た。平凡な返事であると院はお思いになった。朱雀《すざく》院がどうお思いになるかということが気がかりであるから、当分はあちらを立てるようにしておきたいと院はお思いになっても、実行に伴う苦痛が堪えがたく、なんということであろうと悲しんでおいでになった。夫人も、
「あちらへ御同情心の欠けたことでございますよ」
と言いつつ自分の立場を苦しんでいた。次の日はこれまでのとおりに自室でお目ざめになって、宮の御殿へ手紙をお書きになるのであった。晴れがましくは少しもお思いにならぬ相手ではあったが、筆を選んで白い紙へ、
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中道を隔つるほどはなけれども心乱るる今朝《けさ》のあは雪
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と書いて
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