のだから、その方に悪くお思われしたくないと私は努めているのよ」
中将とか中務《なかつかさ》とかいう女房は目を見合わせて、
「あまりに思いやりがおありになり過ぎるようね」
ともひそかに言っていた。この人たちは若いころに院の御愛人であったが、須磨《すま》へおいでになった留守中から夫人付きになっていて、皆女王を愛していた。他の夫人の中には、どんなお気持ちがなさることでしょう、愛されない者のあきらめが平生からできている自分らとは違っておいでになったのであるからという意味の慰問をする人もあるので、女王はそんな同情をされることがかえって自分には苦痛になる。無常のこの世にいてそう夫婦愛に執着している自分でもないものと思っていた。あまりに長く寝ずにいるのも人が異様に思うであろうと我と心にとがめられて、帳台へはいると、女房は夜着を掛けてくれた。人から憐《あわれ》まれているとおりに確かに自分は寂しい、自分の嘗《な》めているものは苦《にが》いほかの味のあるものではないと夫人は思ったが、須磨《すま》へ源氏の君の行ったころを思い出して遠くに隔たっていようとも同じ世界に生きておいでになることで心を慰めようとそ
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