とされるのでしょう」
 と宰相中将は父に言うのであった。
「特使がつかわされたのだから早く行くがよい」
 と源氏は許した。中将はああは言っていても、心のうちは期待されることと、一種の不安とが一つになって苦しかった。
「その直衣《のうし》の色はあまり濃くて安っぽいよ。非参議級とかまだそれにならない若い人などに二藍《ふたあい》というものは似合うものだよ。きれいにして行くがよい」
 と源氏は自身用に作らせてあったよい直衣に、その下へ着る小袖《こそで》類もつけて中将の供をして来ていた侍童に持たせてやった。中将は自身の居間のほうで念の入った化粧をしてから黄昏《たそがれ》時も過ぎて、待つほうで気のもまれる時刻に内大臣家へ行った。公達《きんだち》が中将をはじめとして七、八人出て来て宰相中将を座に招じた。皆きれいな公子たちであるが、その中にも源中将は最もすぐれた美貌《びぼう》を持っていた。気高《けだか》い貴人らしいところがことに目にたった。内大臣は若い甥《おい》のために座敷の中の差図《さしず》などをこまごまとしていた。大臣は夫人や若い女房などに、
「のぞいてごらん。ますますきれいになった人だよ。とりなしが静かで、堂々として鮮明な美しさは源氏の大臣以上だろう。お父様のほうはただただ艶《えん》で、愛嬌《あいきょう》があって、見ている者のほうも自然に笑顔《えがお》が作られるようで、人生の苦というようなものを忘れ去ることのできる力があった。公務を執ることなどはそうまじめにできなかったものだ。しかもこれが道理だと思われたものだ。この人のほうは学問が十分にできているし、性質がしっかりとしていてりっぱな官吏だと世間から認められているらしいよ」
 などと言っていたが、身なりを正しく直して宰相中将に面会した。まじめな話は挨拶《あいさつ》に続いて少ししただけであとは藤の宴に移った。
「春の花というものは、どの花だって咲いた最初に目ざましい気のしないものはないが、長くは人を楽しませずにどんどんと散ってしまうのが恨めしい気のするころに、藤の花だけが一歩遅れて、夏にまたがって咲くという点でいいものだと心が惹《ひ》かれて、私はこの花を愛するのですよ。色だって人の深い愛情を象徴しているようでいいものだから」
 と言って微笑している大臣の顔も品がよくてきれいであった。月が出ても藤の色を明らかに見せるほどの明りは持
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