うの》中将であった。内侍使いは藤典侍《とうないしのすけ》である。勅使の出発する内大臣家へ人々はまず集まったのであった。宮中からも東宮からも今日の勅使には特別な下され物があった。六条院からも贈り物があって、勅使の頭中将の背景の大きさが思われた。宰相中将はいでたちのせわしい場所へ使いを出して典侍へ手紙を送った。思い合った恋人どうしであったから、正当な夫人のできたことで典侍は悲観しているのである。
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何とかや今日のかざしよかつ見つつおぼめくまでもなりにけるかな
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想像もしなかったことです。
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というのであった。自分のためには晴れの日であることに男が関心を持っていたことだけがうれしかったか、あわただしい中で、もう車に乗らねばならぬ時であったが、
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かざしてもかつたどらるる草の名は桂《かつら》を折りし人や知るらん
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博士《はかせ》でなければわからないでしょう。
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と返事を書いた。ちょっとした手紙ではあったが、気のきいたものであると宰相中将は思った。この人とだけは隠れた恋人として結婚後も関係が続いていくらしい。
姫君が東宮へ上がった時に母として始終紫の女王《にょおう》がついて行っていねばならないはずであるが、女王はそれに堪えまい、これを機会に明石《あかし》を姫君につけておくことにしようかと源氏は思った。紫夫人も、それが自然なことで、いずれそうした日のなければならない母と子が今のように引き分けられていることを明石夫人は悲しんでいるであろうし、姫君も幼年時代とは違ってもう今はそのことを飽き足らぬことと悲しんでいるであろう、双方から一人の自分が恨まれることは苦しいと思うようになった。
「この機会に真実のお母様をつけておあげなさいませ。まだ小さいのですから心配でなりませんのに、女房たちといっても若い人が多いのでございますからね。また乳母《めのと》たちといっても、ああした人たちの周到さには限度があるのですものね、母がいなければと思いますが、私がそうずっとつききっていられないあいだあいだはあの方がいてくだすったら安心ができると思います」
と女王は良人《おっと》に言った。源氏は自身の心持ちと夫人の言葉とが一致したことを喜んで、明石へその話をし
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