ないようにと祈っていた。物怪《もののけ》につかれないほんとうの妻は愛すべき性質であるのを自分は知っているから我慢ができるのであるが、そうでもなかったら捨てて惜しくない気もすることであろうと大将は思っていた。大将は日が暮れるとすぐに出かける用意にかかったのである。大将の服装などについても、夫人は行き届いた妻らしい世話の十分できない人なのである。自分の着せられるものは流行おくれの調子のそろわないものだと大将は不足を言っていたが、きれいな直衣《のうし》などがすぐまにあわないで見苦しかった。昨夜《ゆうべ》のは焼け通って焦げ臭いにおいがした。小袖《こそで》類にもその臭気は移っていたから、妻の嫉妬《しっと》にあったことを標榜《ひょうぼう》しているようで、先方の反感を買うことになるであろうと思って、一度着た衣服を脱《ぬ》いで、風呂《ふろ》を立てさせて入浴したりなどして大将は苦心した。木工《もく》の君は主人《あるじ》のために薫物《たきもの》をしながら言う、
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「一人ゐて焦《こが》るる胸の苦しきに思ひ余れる焔《ほのほ》とぞ見し
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あまりに露骨な態度をお
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