遠慮いたされまして、あまりにわかな変わり方は見せられないように思うものですから、お話し申し上げたい長い年月のことも、聞いていただけませんことで、私もお言葉のように残念でならないのでございます」
ときまじめな挨拶《あいさつ》をされ、頭の中将はきまりが悪くなって、この上のことは言わないことにした。
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「妹背《いもせ》山深き道をば尋ねずてをだえの橋にふみまどひける
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そうでしたよ」
と真底から感じているふうで中将は言った。
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「まどひける道をば知らず妹背山たどたどしくぞたれもふみ見し
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と申されます」
と女主人の歌を伝えてからまた宰相は言う、
「どのことをお言いになりますことかそのころはおわかりにならなかったようでございます。ただあまり御おとなしくて御遠慮ばかりあそばすものですから、どなた様へもお返事をお出しになることがなかったのでございます。これからは決してそうでもございませんでしょう」
もっともなことでもあったから、
「ではまあよろしいことにしまして、ここで長居をしていましてもつまりません。誠意を認めていただくことに骨を折りましょう。これからは毎日精勤することにして」
と言って中将は帰って行くのであった。月が明るく中天に上っていて、艶《えん》な深夜に上品な風采《ふうさい》の若い殿上人の歩いて行くことははなやかな見ものであった。源中将ほどには美しくないが、これはこれでまたよく思われるのは、どうしてこうまでだれもすぐれた人ぞろいなのであろうと、若い女房たちは例のように、より誇張した言葉でほめたてていた。
大将はこの中将のいる右近衛《うこんえ》のほうの長官であったから、始終この人を呼んで玉鬘《たまかずら》との縁組みについて熟談していた。内大臣へも希望を取り次いでもらっていたのである。人物もりっぱであったし、将来の大臣として活躍する素地のある人であったから、娘のために悪い配偶者ではないと大臣は認めていたが、源氏が尚侍《ないしのかみ》をばどうしようとするかには抗議の持ち出しようもなく、またそうすることには深い理由もあることであろうと思っていたから、すべて源氏に一任していると返辞をさせていた。この大将は東宮の母君である女御《にょご》とは兄弟であった。源氏と内大臣に続
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