出て、手紙をあけて見せた。女御は微笑をしながら下へ置いた手紙を、中納言という女房がそばにいて少し読んだ。
「何でございますか、新しい書き方のお手紙のようでございますね」
 となお見たそうに言うのを聞いて、女御は、
「漢字は見つけないせいかしら、前後が一貫してないように私などには思われる手紙よ」
 と言いながら渡した。
「返事もそんなふうにたいそうに書かないでは低級だと言って軽蔑《けいべつ》されるだろうね。それを読んだついでにあなたから書いておやりよ」
 と女御は言うのであった。露骨に笑い声はたてないが若い女房は皆笑っていた。使いが返事を請求していると言ってきた。
「風流なお言葉ばかりでできているお手紙ですから、お返事はむずかしゅうございます。仰せはこうこうと書いて差し上げるのも失礼ですし」
 と言って、中納言は女御の手紙のようにして書いた。
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近きしるしなきおぼつかなさは恨めしく、

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ひたちなる駿河《するが》の海の須磨《すま》の浦に浪《なみ》立ちいでよ箱崎《はこざき》の松
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 中納言が読むのを聞いて女御は、
「そん
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