ことも十分できないが」
 と大臣が言うと、例の調子で新令嬢は言う。
「こうしていられますことに何の不足があるものでございますか。長い間お目にかかりたいと念がけておりましたお顔を、始終拝見できませんことだけは成功したものとは思われませんが」
「そうだ、私もそばで手足の代わりに使う者もあまりないのだから、あなたが来たらそんな用でもしてもらおうかと思っていたが、やはりそうはいかないものだからね。ただの女房たちというものは、多少の身分の高下はあっても、皆いっしょに用事をしていては目だたずに済んで気安いものなのだが、それでもだれの娘、だれの子ということが知られているほどの身の上の者は、親兄弟の名誉を傷つけるようなことも自然起こってきておもしろくないものだろうが、まして」
 言いさして話をやめた父の自尊心などに令嬢は頓着《とんじゃく》していなかった。
「いいえ、かまいませんとも、令嬢だなどと思召《おぼしめ》さないで、女房たちの一人としてお使いくださいまし。お便器のほうのお仕事だって私はさせていただきます」
「それはあまりに不似合いな役でしょう。たまたま巡り合った親に孝行をしてくれる心があれば、その
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