言われている新令嬢は気の毒である。大臣は女房を訪《たず》ねた帰りにその人の所へも行って見た。
 座敷の御簾《みす》をいっぱいに張り出すようにして裾《すそ》をおさえた中で、五節《ごせち》という生意気な若い女房と令嬢は双六《すごろく》を打っていた。
「しょうさい、しょうさい」
 と両手をすりすり賽《さい》を撒《ま》く時の呪文《じゅもん》を早口に唱えているのに悪感《おかん》を覚えながらも大臣は従って来た人たちの人払いの声を手で制して、なおも妻戸の細目に開いた隙《すき》から、障子の向こうを大臣はのぞいていた。五節も蓮葉《はすっぱ》らしく騒いでいた。
「御返報しますよ。御返報しますよ」
 賽の筒を手でひねりながらすぐには撒こうとしない。姫君の容貌は、ちょっと人好きのする愛嬌《あいきょう》のある顔で、髪もきれいであるが、額の狭いのと頓狂《とんきょう》な声とにそこなわれている女である。美人ではないがこの娘の顔に、鏡で知っている自身の顔と共通したもののあるのを見て、大臣は運にのろわれている気がした。
「こちらで暮らすようになって、あなたに何か気に入らないことがありますか。つい忙しくて訪《たず》ねに来る
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