まうのです」
と源氏は言った。玉鬘は泣いて、
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山がつの垣《かき》ほに生《お》ひし撫子《なでしこ》のもとの根ざしをたれか尋ねん
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とはかないふうに言ってしまう様子が若々しくなつかしいものに思われた。源氏の心はますますこの人へ惹《ひ》かれるばかりであった。苦しいほどにも恋しくなった。源氏はとうていこの恋心は抑制してしまうことのできるものでないと知った。
玉鬘《たまかずら》の西の対への訪問があまりに続いて人目を引きそうに思われる時は、源氏も心の鬼にとがめられて間は置くが、そんな時には何かと用事らしいことをこしらえて手紙が送られるのである。この人のことだけが毎日の心にかかっている源氏であった。なぜよけいなことをし始めて物思いを自分はするのであろう、煩悶《はんもん》などはせずに感情のままに行動することにすれば、世間の批難は免れないであろうが、それも自分はよいとして女のために気の毒である。どんなに深く愛しても春の女王《にょおう》と同じだけにその人を思うことの不可能であることは、自分ながらも明らかに知っている。第二の妻であることによって幸福が
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