源氏のほうへ膝行《いざ》り寄っていた。
「不思議な風が出てきて琴の音響《ひびき》を引き立てている気がします。どうしたのでしょう」
 と首を傾けている玉鬘の様子が灯《ひ》の明りに美しく見えた。源氏は笑いながら、
「熱心に聞いていてくれない人には、外から身にしむ風も吹いてくるでしょう」
 と言って、源氏は和琴を押しやってしまった。玉鬘は失望に似たようなものを覚えた。女房たちが近い所に来ているので、例のような戯談《じょうだん》も源氏は言えなかった。
「撫子《なでしこ》を十分に見ないで青年たちは行ってしまいましたね。どうかして大臣にもこの花壇をお見せしたいものですよ。無常の世なのだから、すべきことはすみやかにしなければいけない。昔大臣が話のついでにあなたの話をされたのも今のことのような気もします」
 源氏はその時の大臣の言葉を思い出して語った。玉鬘は悲しい気持ちになっていた。

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「なでしこの常《とこ》なつかしき色を見ばもとの垣根《かきね》を人や尋ねん
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 私にはあなたのお母さんのことで、やましい点があって、それでつい報告してあげることが遅れてし
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