まり系統がきちんとしていて王風《おおぎみふう》の点が気に入らないのですかね」
 と源氏が言った。
「来まさば(おほきみ来ませ婿にせん)というような人もあすこにはあるのではございませんか」
「いや、何も婿に取られたいのではありませんがね。若い二人が作った夢をこわしたままにして幾年も置いておかれるのは残酷だと思うのです。まだ官位が低くて世間体がよろしくないと思われるのだったら、公然のことにはしないで私へお嬢さんを託しておかれるという形式だっていいじゃないのですか。私が責任を持てばいいはずだと思うのだが」
 源氏は歎息《たんそく》した。自分の実父との間にはこうした感情の疎隔があるのかと玉鬘《たまかずら》ははじめて知った。これが支障になって親に逢《あ》いうる日がまだはるかなことに思わねばならないのであるかと悲しくも思い、苦しくも思った。月がないころであったから燈籠《とうろう》に灯《ひ》がともされた。
「灯が近すぎて暑苦しい、これよりは篝《かがり》がよい」
 と言って、
「篝を一つこの庭で焚《た》くように」
 と源氏は命じた。よい和琴《わごん》がそこに出ているのを見つけて、引き寄せて、鳴らしてみると律の調子に合わせてあった。よい音もする琴であったから少し源氏は弾《ひ》いて、
「こんなほうのことには趣味を持っていられないのかと、失礼な推測をしてましたよ。秋の涼しい月夜などに、虫の声に合わせるほどの気持ちでこれの弾かれるのははなやかでいいものです。これはもったいらしく弾く性質の楽器ではないのですが、不思議な楽器で、すべての楽器の基調になる音を持っている物はこれなのですよ。簡単にやまと琴という名をつけられながら無限の深味のあるものなのですね。ほかの楽器の扱いにくい女の人のために作られた物の気がします。おやりになるのならほかの物に合わせて熱心に練習なさい。むずかしいことがないような物で、さてこれに妙技を現わすということはむずかしいといったような楽器です。現在では内大臣が第一の名手です。ただ清掻《すがが》きをされるのにもあらゆる楽器の音を含んだ声が立ちますよ」
 と源氏は言った。玉鬘もそのことはかねてから聞いて知っていた。どうかして父の大臣の爪音《つまおと》に接したいとは以前から願っていたことで、あこがれていた心が今また大きな衝動を受けたのである。
「こちらにおりまして、音楽のお遊びが
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